星野有史 “研究所通信/ハーネスランド”

マリアのイラスト
 「ハーネス・ウィ研究所通信」のタイトル『ハーネスランド』は、天使犬ウィが暮らしていた故郷、理想の福祉社会をイメージした「共星=ハーネスランド」から名前をつけました。この星に住む天使達が協力し合って生活しているモデルを理想に、私達も心のハーネスを輝かせ、ともに助け合い成長できるコミュニティを願って発信するものです。
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オカイモノワヨロシイノデスカ
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    オカイモノワヨロシイノデスカ


    軽やかな足取りで歩道を行くシータス。
    おそらくもう少しで止まるだろう。
    そう指示は出していないのだけれど。
    予想した場所でパタッと足が止まった。
    やっぱり……。
    「おいおい、急ブレーキをかけられたら前につんのめるじゃないか」
    私はそう言ってシータスをたしなめるが、本気ではない。
    むしろ気の回しようには感心させられるくらいだ。
    本当はストップを言っていないので
    通過しないといけないのかもしれないけれど、
    ここには何度も利用していたコンビニが。
    だから私が忘れていると思って気を利かしてくれた。
    たぶん。

    菓子や弁当、飲み物、揚物も買った。
    払い込みも。
    とにかく便利だった。
    店員は親切だったし、
    シータスに対しても常に温かく見守ってくれていた(#^.^#)
    けれど……。
    閉店してしまったのだ('_')

    人手不足、時短営業などの問題がニュースになっているのは知っている。
    解決が必要だ。
    それがこの店でも、ということなのだろうか?
    時代の影響は確かにある。
    その歴史、移り変わりは
    社会のニーズ、トレンド、経済を反映していたし、
    地域貢献や災害対策でもコンビニの果たす役割は大きかった。
    一方で個人的には
    盲導犬の入店に理解を促さなければいけないこともあったけれど。
    つまり私にとっては色んな面でその時々を知る試金石になっていたのだ。
    それが無くなってしまったということは、
    私を映す鏡と言うか、
    社会の中で自分を客観的に見ることのできるアイテムを
    一つ失ったような困惑がある。
    そういう意味で言えば
    私はある種のコンビニ人間だったと言えるのかもしれない。

    芥川賞を受賞した村田沙耶香『コンビニ人間』(文藝春秋)を読んだ時、
    私は主人公である彼女の奇妙な行動、価値観に戸惑い、
    ページにしおりをはさむことができなくなった。
    それは彼女が変わり者だとか、
    異常な価値観の持ち主であるようなレベルの話でなく、
    生き方が自分の立場と反対で、
    授業や講演で伝えてきたことと異なる内容であったからだ。
    それはマニュアルに対する考え方の違いだ。

    たとえば私のこんなやり取り。
    身分証の提示が必要だった。
    「自動車の運転免許証はありますか?」と平気で聞く店員。
    自動運転車で来たとでも言うのか!
    それはまだ早いだろう。
    研修で教わったことかは知らないけれど、
    おそらくマニュアルがあって、
    その通りにした、ただそれだけ。
    だとするならまだAIロボットの方がましではないか。
    だから人間であってほしい、と。

    マニュアルは必要なのだが、
    臨機応変に考え、判断し、行動すること。
    コンピューター世代には受け入れにくい課題なのか?
    けれど、そんなステレオタイプ的な社会を変えて、
    個人とか個性を大切にする生き方が求められてきたはず。
    でも、これって結構難しい。
    自分をしっかり持たないと、できない。
    社会の常識とは?
    基準はどこ?
    何がノーマルなの?
    『コンビニ人間』に描かれていた彼女はそれに迷った。
    分からない、と。
    そんな中で自分を安心させてくれたのがコンビニ。
    ここにいることで社会が分かる。
    そこにいれば自分を見失わない。
    まさにそのこと自体が彼女のアイデンティティに。
    マニュアルが彼女の個性を見い出すことにつながる。

    「シータス、ここにあったお店、無くなっちゃったんだよ」
    「…………」
    「だからもう止まらなくていいんだ」
    「どうして?」と今度は首を傾げて返事がきたような……!
    「さあ行こう」
    そう声をかけて進ませる。
    しばらくすればまた別の店になるのだろうか。
    新しいコンビニ。
    そう無人の。
    QRコードをかざしたり、買いたいものを持って出ればいいだけの。
    きっと目の見えない自分には利用できず引き返すしかなくなる。
    このままでは!
    新時代のコンビニ人間とは?
    どうなる私?
    小説の中の彼女は?
    空の店を後にした背に
    「オカイモノワヨロシイノデスカ」と
    そんな音声合成が届いた気がしたのは、私の思い過ごし……だろう!


    <星野有史>



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