星野有史 “研究所通信/ハーネスランド”

マリアのイラスト
 「ハーネス・ウィ研究所通信」のタイトル『ハーネスランド』は、天使犬ウィが暮らしていた故郷、理想の福祉社会をイメージした「共星=ハーネスランド」から名前をつけました。この星に住む天使達が協力し合って生活しているモデルを理想に、私達も心のハーネスを輝かせ、ともに助け合い成長できるコミュニティを願って発信するものです。
ミケが残していったもの
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    ミケが残していったもの


    仕事から帰って門を開くと
    「ミャーン」
    朝起きてシータスのトイレに庭に出ると
    「ミャーン」
    近付いて来て甘えるわけでもなく、
    だからと言って威嚇しているのでも……たぶんない?
    ちょっと離れた場所から、いつもこちらをうかがい
    「ニャニシテルニャー?」と話しかけてくるように聞こえた……あの鳴き声も
    もう聞こえない。
    死んだからだ。

    この三毛猫、はじめは野良かと思って勝手にミケなんて呼んでいたが、
    お向かいさんの飼い猫と判明!
    ちゃんと名前もあったようだ。

    経緯はよく分からないが、住み着いたらしい。
    避妊をして……
    でも、部屋に入らず、撫でようとすると逃げてしまう、と。
    そんなこともあって2年前くらいから私の家にも遊びに来るように♪

    しかし、お向かいさんと家の間には片側一車線だが交通量のある車通りが。
    リスクを冒して来ることもあり
    「あー、無事で良かった。これでも食べて休んでいきな」と
    『お、も、て、な、し』
    それをするからまた来るのかもしれないが、
    その時はその時、とお向かいさんも(#^.^#)

    しかし、危険はそれ以外にあったのだ。


    テレビの情報番組。
    「あれっ!」と耳に飛び込んできたのは以前、
    ミントやキースを診てもらっていた女性の獣医師。
    専門学校の勤め帰り、
    電車を途中下車して通った評判の病院。
    まだ盲導犬が社会に受け入れられていない平成の始め、
    治療にも負担がかからないよう気を使っていただいた。

    取り上げていたのはペットの熱中症問題。
    かなり危険!
    その対処法を伝えていた。


    死ぬ数日前から姿を見せなくなったミケ。
    水も餌も置いてあったのに……口を付けていない。
    どうしたのか、心配していたのだが……
    現れたミケは弱々しく
    別な猫かと見間違えるくらいのやせようだと。
    手を出すと逃げるので、気を使わせないよう水を置いてそっと離れる。
    が、飲まない。

    「ミルクなら」と与える。
    ペチャペチャ、とほんのちょっとだけ舌を濡らしたのが、最期だった。

    素人目なので定かではないが、
    その状態からして、おそらく熱中症だろう。
    番組で伝えていた危険。
    病院に連れて行く判断も。
    が、
    飼い猫とはいえ、人と距離を取り、自由を欲する。
    仮に一命を取り留めたとしても、また外に出るだろう。
    『これが私の生き方なの』と自己主張しているかのように。

    動物が自然の中で生きていく。
    そんな当たり前のことができなくなった環境。
    お世話になった医師は未来にどんな終着点を見ているのか。

    「お帰りなさい」と迎えてくれたミケ。
    「おはよう」と挨拶してくれたミケ。
    一度も触れたことはないけれど、
    温かい心に触れた思い。
    加えて
    ミケの残していった課題!!
    その意味を深く受け止めて、
    共生に向かい合っていきたい、と思わされた出会いでした。


    <星野有史>



    | 星野有史 | - | 22:00 | - | - | - | - |
    立ち上がってもらえますか!
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      立ち上がってもらえますか!


      いつの間にか眠っていた。
      心地よい揺れに身を任せて……まるでふわふわ小舟で浮かんでいるかのような感覚。
      何て気持ちがいいんだろう。
      そんな私を現実に引き戻した突然の呼びかけ。
      「起きてくださーい。起きて」と。

      一体、何なんだ!
      目を覚ました私に彼は続けた。
      「すみません。一度立ち上がってもらえますか」と。


      仕事を終えて帰るターミナル駅。
      折り返しの始発電車に乗り込むと、私はシータスの案内で席に座る。
      シートの一番端。
      邪魔にならないようシータスは足元に伏せさせた。

      以前だったら、すぐ
      「いい子ですね」とか、
      「盲導犬は降りる駅が分かるんですか?」などと声をかけられたものだ。
      しかし、今は少ない。
      盲導犬が珍しくなくなったせいもあろう。
      けれど、
      圧倒的に違うのはスマホの普及。
      殆どの人はそれに集中していて、
      それぞれの世界に入り込んでいる。

      トラブルは困るけど、
      たわいのない会話もなく、
      人の気配も感じられないような車内には、
      時々不気味な空気さえ覚えるほどだ。

      自分もスマホを手にしてみるが、
      音を拾うためとはいえ耳をイヤホーンで塞ぐのは危険もあるし、
      揺れる電車に指先の微妙なコントロールまで奪われたくない。
      ぶつぶつマイクに向かって音声入力したら周りの人はひくだろう。
      見えなくても使いこなしている人はいるけど、私はポケットに入れたまま。
      そのうち……リズミカルな走行音と揺れに眠気が襲ってくる。


      話しかけてきたのは高校生くらいの男の子。
      一体、何の用?
      寝ているところを起こして、それも席を立てとは?
      決して強い口調ではないのだが、理由も告げない指示に「何だ、こいつ」と。

      その後ですぐに思い直す。
      もしかしたらシータスのしっぽが出ていて踏まれてしまうとか、
      ぐったり具合が悪そうだとか!
      いや、食べ物を与えたり、いたずらする人もいる。
      それを教えてくれたのかも?
      まだ覚めきれない頭であれやこれや考えた。
      けれど、立ち上がらなければならないまでの理由は思いつかない。
      もしかしたらシータスではなく、自分の方に何かあるのか!

      「どうしたの? 何で立たないといけないの?」
      彼は説明する時間もおしいといった早口で
      「スマホのバッテリーケースを落としちゃったんです。背中の奥に……」と。

      すぐに手を回して確認してみると、何かが触れた。
      「これ?」
      拾って彼の前に。
      「はい。ありがとうございます」と、ひったくるみたいに、
      それも逃げるような急ぎ足で電車を降りた。

      私は吹き出してしまった。
      おそらく彼はドアの角に立ってスマホをいじっていた。
      そうしたらスルリとケースが落下。
      手を伸ばして取るにも仕切りのボードが高くて……届かない!
      降りる駅は迫ってきているし、
      拾ってほしい、と頼みたい人には障害が!
      自分が拾うために立ってもらうことを考えたが……熟睡。
      ましてや足元には盲導犬が番をしているではないか。
      困ったあげくの呼びかけだったのだ……きっと。

      駅に停車していた電車は彼が降りてすぐドアを閉めて発車した。
      ぎりぎりセーフ。
      間に合ってよかった、と安堵する一方で苦笑いが。

      ながらスマホは困るし、
      画面に釘付けで無関心の車内も淋しいが、
      そんな中で生まれたコミュニケーション。
      こんなこともあっていいか(#^.^#)

      シータスが顔をあげて私を振り返った。
      ふー、と漏らしたため息に、隣りのお姉さんが、クスッ、と笑った。

      <星野有史>



      | 星野有史 | - | 21:30 | - | - | - | - |
      梅雨のせいではないけれど!
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        梅雨のせいではないけれど!


        今年の関東地方は梅雨らしい梅雨!
        蒸し暑いし、そこそこ雨も。
        そんなふうに感じるのは、私だけ?

        外は今にも雨が落ちてきそうな空気。
        じめじめして鬱陶しい。
        何だか気分がのらないが、そうも言ってられない。
        専門学校で講義がある。
        私は気合を入れて、家を出た。

        学校近くの駅に着く。
        傘を開く音、水をはじく自動車。
        やっぱり雨が降りだしてしまった。
        立ち止まり考える。
        ここから学校までは15分くらい歩かなければならない。
        レインコートを着せても……
        シャンプーしたてのシータスを濡らしたくはなかった。
        東京のタクシー料金は安い。ワンメーターで行くだろう。
        私はタクシーを選んだ。
        ドアが開く。

        「お客さん、ちょっと待って。犬がいるの?」
        「盲導犬ですが」
        「それなら仕方ないか。おしっこはしないだろうな」
        「ちゃんと仕付けてあるから大丈夫」
        そう言って私はタクシーに乗り込んだ。
        シータスは狭い足元で身を縮ませた。

        「でもな、やっぱり……動物の臭いが残ると困るんだよ」
        〈あんたの加齢臭の方がよほど臭うよ〉と思ったが、
        失礼なので口にせず。

        ぶつぶつ不満を吐露していたが、
        ドアを閉めたので乗車を認めたってことなんだろう。
        私は行先を告げた。

        「あのさ、あんたみたいに身体の悪い人が時々乗るんだけど」
        〈…………?〉
        「俺はお世話しないよっていつも話してんの」
        〈…………?〉
        「だって、手助けしてやる介護の資格、持ってないしな」
        〈だったら取ればいいでしょ。それに資格がなくてもできることはあるのに〉
        そう思ったが、心に留める。
        「だから、あんたも降りたら一人で行ってくれよ。手伝わないから」
        〈誰もお願いなんかしてないし……〉
        それも、言葉にせず。
        「困るんだよ。俺は介護人じゃなくて運転手なんだからさ」
        結構しつこい。蒸し暑い梅雨のせいでいらいらしてんのかな?
        しばし、無言。
        そのうち
        「もう少しで着くよ」と運転手。

        車が止まる。
        料金を支払ってシータスを後ろ足から降ろす。
        「あそこに人がいるから声かけてやろうか」
        「いいえ」
        「ふーん」
        〈それなら資格を取ってから。この学校でも教えてくれますよ〉
        そう言ってやりたかったが……絡まれそうなので、止めた。

        来年は東京でパラリンピックがある。
        外国から障害のある人たちも大勢来るだろう。
        盲導犬も。
        こんなんで大丈夫なのかな?

        身体の不自由な人の乗車に、
        サービスの行き届いたタクシー会社はたくさんある。
        ヘルパーの資格を持つドライバーも(#^.^#)
        移動が困難な人にとっては、とーっても助かる。
        けれど、
        時々いるんだ、こうして嫌味を言う運転手が('_')
        乗車拒否をする車もあるから、いい方なのかな?
        何でまだこんなレベルなんだー!

        急ぎ足で学校に入った。
        「先生、シータスちゃーん」と明るく学生に迎えられて……
        一気に心の雲が晴れた。
        それなのに、もふもふした癒し雲が胸中を覆い、
        まぶたを腫らして何かがこぼれ落ちそうになるのは……
        きっと梅雨の湿気が原因。
        そういうことにしておこう。


        <星野有史>



        | 星野有史 | - | 12:30 | - | - | - | - |
        話しかけてもいいんだよ
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          話しかけてもいいんだよ


          急に飛び出して来たのは男の子たち四人くらい?
          「あああああ、もー……」と声をあげて、
          バタバタバタと追いかけっこするようにして、
          シータスにぶつかって来た!
          後退りした動作に私も一歩足を引く。

          「ごめんなさい」
          そう謝ったのはぶつかって来た子だろう。
          まだ小学校低学年といったくらいの幼い声だった。

          公園を突っ切るように伸びる歩道。
          自動車も入ってこないので安全と言えば安全なのだが……、
          杖を突いたお年寄りも、
          ベビーカーを止めて話し込むママたちも。
          だから、やっぱり危険なのだ。

          こちらはスローペースで新緑のそよ風を楽しんでいただけ、
          ぶつかられたところで怪我はない。
          少しビックリしたって程度だ。
          それでもすぐに謝ってくれたので嬉しくなった♪
          「いえいえ、気を付けて遊んでね」と口に出かかった、その時!

          「ダメなんだぜ。盲導犬を連れた人に話しかけちゃ」
          「…………」

          今度は明らかに年上の子だ。
          しっかりした声だったから小学校も高学年だろう。
          その指摘に、ぶつかった子は思わず
          「ごめんなさい」と。
          これは、いけないのに話しかけてしまって……、という意味だ。
          「だからダメだって言ったろう」
          年上の彼はその言葉を聞くとまたもたしなめて、すぐに去った。
          そばにいた子たちも慌てて追いかけて行く。

          「いいんだよ。人には話しかけても」
          彼らに追いつくように言葉を投げたが、届いたかどうかは分からなかった。

          確かに盲導犬に触ったり声をかけたりしてはいけない。
          仕事に集中できなくなるからだ。
          それは正しい。
          けれど、人にまで話しかけるのを禁止しているわけではないよ。
          危険な時はもちろん、何気ない会話も大歓迎(#^.^#)

          以前に比べたら盲導犬に対する理解は深まった。
          でも?
          それはこの男の子たちだけではなくてね。
          「話しかけちゃいけないって聞いてたんで、あなたが迷っていてもただ見てたの」
          「…………?」
          「やっぱり教えてあげて良かったわ」
          手引きされながら、こんなふうに言われて驚くこともちょいちょい。
          そうでないことを伝えて……、
          「あら、そうだったの」と改めてくれた人も。

          『人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ』
          令和の時代に込められた思い。
          情報社会は益々発展していくだろう。
          ネットが絡まり、混乱する世界に問われる真実。
          話しかけられずに孤立する自分の姿を想像して……、
          淋しくなった令和のスタートでした('_')


          <星野有史>



          | 星野有史 | - | 15:30 | - | - | - | - |
          盲導犬は字が読めるんですか?
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            盲導犬は字が読めるんですか?


            駅の乗り換え。
            一度改札を出て別の路線へ。
            通路を進んで突き当りを左に曲がります。
            下り階段を降り切ってすぐのことでした。

            「あのー、盲導犬は字が読めるんですか?」
            不思議そうに初老の女性が尋ねてきました。
            「読めたら面白いかもしれませんね」と、やんわり無理であることを伝えます。
            「だってね。正面のエレベーターに点検中の案内が貼ってあったから。それを見て階段
            に向かったのかと思ったのよ」と、質問の意図を教えてくれました。

            時々利用している駅でもあり、ここにエレベーターがあるのは知っていました。
            でも、薦められて乗ったのが何度かあるだけ。基本、階段を使います。
            健康のため♪
            それもありますが、エレベーターって、ちょっと苦手。
            目の不自由な人には多いんじゃないかな?
            うーん、もしかしたら自分だけかも(笑)

            たとえば、こんな理由!
            待っている人がどれくらいいるんだろう?
            どこの階にあって、いつ来るのかな?
            ドアが開いた時に空いているか、混んでいるのか、上下どっちに行くのかが、やっかい

            ボタンに手を伸ばすべきか。誰かが教えてくれればいいけど、押してあるのに押してな
            んて言うのも……。
            チャイムが鳴ったり、音声でガイドするものも。それでも雑音で聞き取りにくく、把握
            できずに戸惑う場面は、いっぱい。
            そんなことを思うと面倒になって。
            だから、この時も始めから階段に向かっちゃったわけ。
            でも、見えないんだからエレベーターの方が楽だし、危険もないのでは、と周囲の人は
            思うみたい。

            「ありがとうございます。……と言うわけで、盲導犬には階段を指示したんです。でも
            、逆にこちらが工事中とかで狭くなっているような時は声をかけて一緒にエレベーター
            に乗ってくれますか?」
            「もちろんよ。でも、何で乗り換えのホームが分かるの? やっぱり盲導犬は字が読め
            るんでしょ」
            「経路を把握して僕が支持してるから」
            「へー!」

            バリアフリーが進んで社会は便利に……なった、はず?
            エレベーターも、その一つ。
            あらゆるところにコンピューターが!
            これからは盲導犬もロボットになって……字が読めるようになるかも!
            そうしたらこうして声をかけてくれる人もいなくなっちゃうのかな('_')

            平成が終わって令和に。
            益々発展していくだろうけど、こんなちぐはぐな関係も社会には必要なんじゃないかっ
            て(#^.^#)
            人間臭いやり取りが残る時代にしたい、そんなふうに思いました。


            <星野有史>



            | 星野有史 | - | 22:40 | - | - | - | - |
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